R ビールのアンケート調査を分析する1

0.  データの紹介

今回は下記の本のサンプルデータを用いて、アンケート調査結果の分析における信頼区間の利用例を示してみたい。

データの定義は次の通り。(少し長いです)

このアンケートデータはビールのブランドイメージについての調査結果です。まず、Q1は認知、Q2は飲用経験について。

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Q3は味・香りに関する印象について。

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Q4は飲んだ時の気分について。回答内容はQ3と同様、1(そう思う)~5(そう思わない)で評価する。

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Q5, Q6はアルコール飲料のイメージについて。回答内容はQ3と同様。

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Q7は飲用場面についての項目。回答内容はQ3と同様。

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 最後に属性情報。

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1.  分析の前提

今回は、ビールメーカーのマーケティング担当者として、以下のシチュエーションで分析を行うことにする。

1.1 ケース

サッポロビールのマーケティング担当者として、自社製品と他社製品のブランド認知とイメージを調査するためあるマーケット調査会社にアンケート実施を依頼した。その結果、マーケット調査会社のモニターのうち、事前に定義された属性を満たす人(一都三県)で、回答に承諾した人537名から回答を得ることが出来きた。本アンケート結果から、自社製品(エビスビール)と他社製品のブランド認知とイメージを分析する。

1.2 標本の抽出方法の妥当性確認

アンケート調査をするときは、アンケート回答者の属性に偏りがないようにアンケートを実施することが重要である。以下、今回のデータについて確認する。

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性別は男性が30%、女性が70%年齢は40前後を中心に山なりに分布している。家族構成については、1の一人暮らしが全体の15%、2の家族と同居が全体の84%を占める。1の会社員が41%、7の専業主婦が35%を占める。上記より、明らかにアンケート回答者に偏りが見られることが分かる。このような場合、アンケート結果の集計値に偏りがあることを前提として検証を進める。実際はこのようなことになる前に、調査したい母集団の属性の識別、アクセス可能な母集団と理想の調査対象とのギャップの確認を行い(場合には結果を補正することを想定して)、無作為抽出を行うことが重要である。頻繁に使用されるインターネット調査などは、母集団自体にバイアスがある可能性があり、理想の母集団とどのようなギャップがあるのか確認が必要。(ここでは詳細は割愛)

2.  信頼区間による分析

クロス集計などを行う前に、まず必要なのは各設問の回答の集計であろう。ここでは各設問で「はい」または「そう思う」「ややそう思う」と回答した人の割合を集計し、95%信頼区間を評価する。

2.1 認知度(Q2)

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ブランド認知度はほぼすべての商品において80%以上となっており、エビスビールはスーパードライ、一番搾りと並んでトップクラスの認知度。

2.2 飲用経験(Q2)

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利用経験についてはスーパードライが最も高く、次いで一番搾り、エビスとなっている。

2.3 味・香り(Q3)

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味全般に関するアンケート結果をみると、のどごしについてはスーパードライが信頼区間を加味しても最上位。次いでキリンラガー、エビス、淡麗が横並び。香り、味については信頼区間を加味してもエビスビールが最上位となっており、エビスビールの味全般に関する評価は他のビールと比べて高い水準にあることがわかる。

2.4 飲んだときの議員(Q4)

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飲んだ時の気分についてみると、「幸せな気持ちになる」と「ほっとした気分になる」が信頼区間を加味してもエビスビールが最も高い。「爽快な気分になる」はスーパードライが最も好評価。

2.5 ブランドイメージ(Q5)

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ブランドイメージについても、全ての評価軸においてビスビールが最も高い。

2.6 ブランドの評価(Q6)

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ブランドの評価については、「総合的に見て良いブランドである」は、平均をみるとエビスビールが最も高いが、信頼区間で見るとスーパードライ、キリンラガーが同一の区間を共有しているため、最も高いとは必ずしも言えない。一方で、「好きなブランドである」は信頼区間を加味しても最もエビスビールが高い。

2.7 飲用シーン(Q7)

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利用シーン別にみると、スーパードライが8項目中6項目で一番目、ないし二番目となっている。エビスビールは「特別な日の夕食時に飲む」と「外食時に飲む」と「一人でゆっくりと飲む」で一番目、ないし二番目となっている。普段使いよりもプレミア感のある商品イメージを持たれていると推察できる。

3. クラスター分析

アンケート調査では単に各設問の結果を集計するだけではなく、多種多様な統計解析(クラスター分析、決定木分析、カイ二乗検定等)が可能である。 ここでは、クラスター分析を実施することにする。

非階層クラスタリング(k-means法)の場合は、WSS(群内平方和)の減少カーブを見て、最適なクラスター数を判断することが定石である。

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WSSの減少幅が緩やかになるクラスター数4を今回は採用することにする。Rでkmeans関数を用いた後には、レーダーチャートを描いて特徴を分析するとわかりやすい。

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クラスター1:全ての項目が2前後の「親エビス派」(n=201)

クラスター2:全ての項目が3前後の「無関心層」(n=154)

クラスター3:全てに項目について評価が1に近い「ロイヤルカスタマー」(n=147)

クラスター4:全てに項目について評価が低く、特にQ4飲んだ際の気分に関する評価が低い「アンチエビス派」(n=35)

エビスビールへの評価の高いクラスター1とクラスター3が全体の約65%を占めており、またエビスビールへの評価の低いクラスター3は7%程度と、総じてエビスビールの評価は高いことが推察される。

今後の方針としては、全体の30%弱を占める無関心層のクラスター2への訴求が主要な課題の一つになると考えられる。

4. まとめ

標本平均をとることで、母集団の母平均と近似することができる一方で、サンプル数が限られる場合はあわせて信頼区間をとることでデータの理解を誤ることを防ぐことができる。今回のケースでいうと、アンケート回答者に偏りがあるものの、エビスビールに対する評価は総じて高い傾向にあることが明らかになった。