データ分析から考える「地方消滅」1 - ざっくり捉える人口減少の傾向

「少子高齢化」の日本で何が起きているのか?

2014年にいわゆる「増田レポート」が発表され、「消滅可能性都市」が896あると発表されたのは記憶に新しい。2016年2月に速報された2015年の国勢調査では、「15年10月1日時点で外国人を含む日本の総人口は1億2711万47」人と、「10年の前回調査に比べ94万7305人(0.7%)減少」したということが発表された。しかし、「少子高齢化」「人口が減る」という言葉ばかりが踊っている印象を受けており、時間があるときに詳しく分析してみたいと考えていた。これから、主に総務省の人口関連の統計データを中心に地道な分析を重ね、机上で出来得る限りの考察をしていきたいと思う。

まずは、自治体毎の人口の増減をざっくり捉えてみる

人口関連のデータに関して、全国規模の調査で最も精度が高いと想定されるのは、総務省統計局の「国勢調査」であると考えられるので、これらのデータを用いることにする。先月速報された「平成27年国勢調査 人口速報集計の集計結果」を用いたい。このデータは、自治体毎に人口、前回調査(2010)からの人口増減、男女の数、面積、人口密度、世帯数、前回調査(2010)からの人口増減を集計したものである。

そもそもの議論は、人口が減少することにより(生産性が向上しない限り)経済力(GDP)が減少することになり、良くないという話だと理解しているので、まずは単に各自治体の人口の増減に着目してみよう。人口の増加した自治体、減少した自治体の傾向を見ることで、実態が理解できるに違いない。 

各自治体の2010年から2015年の人口増加率を可視化したのがこちらの棒グラフ。なお、震災による影響が大きいと想定される福島県の自治体は除いてある。また、政令指定都市における自治体は「区」を単位として計算している。

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 2010年から2015年の人口増加率が大きい自治体から小さい自治体の順番で横軸に並べてある。ご覧の通り、人口が増えている自治体(405自治体)よりも、減っている自治体(1,430自治体)の方が多い。単純平均を取ると約-4%となる。

人口の増減率に注目して、自治体を分類

人口が増加した自治体、減少した自治体にはそれぞれどんな特徴があるのであろうか。特徴をつかむために、2010年国勢調査時の「業種別就業者数」のデータを用いることにする(2015年結果は未発表)。これは、各自治体の業種別の就業者数を集計したものである(農林業、製造業、などなど)。 

また、今回は「人口の増減」という指標に着目しているので、決定木を用いて増加自治体と減少自治体の傾向を掴むことにする。結果はこちら。 

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全部で7つのグループに分かれた(WSSの減少幅に基づき、適切な木の深さを設定した)。読み方だが、四角の中に書かれている数字が、単純平均の人口増加率、n=の部分は該当する自治体数、木が分岐しているところに書かれているのは就業者に占める各産業の就業者割合の条件である。例えば、グループ1であれば、情報通信業の就業者の割合が0.0094(0.94%)未満であり、不動産業の就業者の割合が0.0046(0.46%)未満の自治体である。そして、グループ1では単純平均の人口増加率が-8.9%で、そのような自治体は410あることがわかる。

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情報通信業に就業している人の割合が多いか否かで大きく人口増加率が異なることがわかる。IT企業は都心部に拠点を置く例が多いだろうから、違和感はない結果である。一方で、不動産業・物品賃貸業、複合サービス、建設業は状況が入り組んでて今一ピンと来ない面がある。

各グループの特徴を可視化する

前述のように、決定木による分析は、各グループの特徴を理解するヒントにこそなれ、全体像は理解が出来ない。そこで、各グループに該当する自治体を取り出し、どの業種で働いている人が多いのかをとりあえず(合算値で)可視化することにする。

グループ1 農業中心の自治体 平均人口増減率 -8.9% 410自治体

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面積が大きい程、その業種に就業する人が多いと考える。グループ1は農業林業が中心で、製造業が次いで大きいという特徴がある。このタイプが最も人口が減少している。

グループ2 製造業・小売・農業中心の自治体 平均人口増減率 -7.6% 160自治体

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製造業と卸売・小売りが中心で、その次に農業林業が来ている。このタイプもやはり人口減少が著しい。

グループ3  製造業・小売・医療福祉中心の自治体 平均人口増減率 -4.5% 502自治体

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製造業、卸売・小売、 医療福祉、建設業、農業・林業の順番で割合が大きい。グループ1, 2程ではないが、単純平均で-4.5%の人口減少。

グループ4  製造業・小売・医療福祉中心の自治体 平均人口増減率 -4.9% 54自治体

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グループ3と非常に似ている。製造業、卸売・小売、 医療福祉、農業・林業、建設業の順番で割合が大きい。単純平均で-4.9%の人口減少。

グループ5  製造業・小売・医療福祉中心の自治体 平均人口増減率 -0.9% 472自治体 

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グループ3, 4と似ている傾向にあるものの、運輸業・郵便業の割合が大きいのが特徴。単純平均で-0.9%の人口減少。

グループ6  「分類不能の産業」がある自治体  平均人口増減率 1.7% 216自治体 

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就業者数1~3位は他のグループと重複するものの、4位に「分類不能の産業」が登場する。単純平均で1.7%の増加。

グループ7  「分類不能の産業」がある自治体  平均人口増減率 9.1%  21自治体 

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他のグループとは明確に異なり、分類不能、小売、情報通信、医療福祉、宿泊・飲食というサービス業中心の就業者構成。単純平均で9.1%の人口増加。

まとめ

人口増減をみるための特徴として業種別の就業者数、つまり各自治体でどのような業界に属する人の割合が大きいのかに注目してみた。全体的に「製造業」「小売・卸売」の割合が大きいことは全般的に共通するものの、農業・林業の割合が大きい自治体は人口が減少しているが、医療・福祉の割合が比較的大きい場合は人口減少の割合が緩和され、分類不能、情報通信の割合が大きいと人口が増加している傾向が見られる。また、グループ7を除き、建設業の割合は3~5位の位置につけていることがわかる。

ただし、これらは各グループに該当する自治体の就業者数を合算したものであり、グループ内の違いを考慮していない。それぞれのグループ内には特徴のある産業構成を持ち、人口が増加している自治体もある一方で、減少している自治体もある。そこで、グループ毎にどのような差があるのかを分析してみたい。続く。